伊豆新聞連載記事(2008年2月3日)

伊豆の大地の物語(23)

伊豆近海の海底を掘る(2)

火山学者 小山真人

 深海掘削船(くっさくせん)ジョイデス・レゾリューション号第126次航海による伊豆七島近海の調査は、1989年4月中旬から6月にかけての2ヶ月間にわたった。その間の下船や寄航はなく、私を含む日本人研究者5名のほか、さまざまな国籍と研究分野をもつ合計26名の研究者が乗り込んだ合宿とも言うべきものであった。もちろん、船の上の生活から調査地点ごとの報告書作成まで、すべてが英語づけの日々である。
 航海中のジョイデス・レゾリューション号は24時間休みなく稼働しており、乗船研究者を含むすべての乗組員は12時間交代の勤務体制をとる。つまり、次々と海底から引き上げられる地層・岩石を自分の役割に従って分析し、その成果を12時間ごとに同じ仕事を担当する相棒に引き継ぐのである。筆者の役割は、岩石のもつ微弱な磁気測定であり、相棒は米国から来た研究者だった。他にも、地層そのものの組織や構造を調べる研究者、地層に含まれる化石を調べる研究者、地層や岩石の化学分析をおこなう研究者、地層や岩石の物理的性質を測る研究者などがいた。本連載の第11回で説明したように、岩石の磁気測定は地層の年代を知るための重要な手がかりを与えるため、筆者を含む2人の岩石磁気研究者の責任は重大であった。
 2ヶ月もの航海の間にはさまざまなトラブルや苦労もあったが、青ヶ島から鳥島にいたる近海での19掘削孔(採取した地層の厚さ総計は2122メートル)の調査が無事に終わり、伊豆とその周辺地域の大地の成り立ちを考える上での大きな成果が得られた。その重要部分を次回に説明しよう。
 ちなみにジョイデス・レゾリューション号は国際深海掘削計画に使用された2代目の船である(現在も現役で活躍中)。3代目の深海掘削船「ちきゅう」(排水量5万7000トン)は日本が建造し、試験航海を終えた後に2007年9月から最初の調査航海を紀伊半島沖で開始している。「ちきゅう」は2006年に公開された映画「日本沈没」(リメイク版)にも登場して大活躍したが、同じ映画の中にジョイデス・レゾリューション号もちらりと顔見せしており、それに気づいた筆者はとても嬉しかった。

深海掘削船(くっさくせん)ジョイデス・レゾリューション号の船内実験室の風景。
超伝導を用いた大がかりな岩石磁気計と,その操作を担当した当時の筆者。


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