伊豆新聞連載記事(2008年1月20日)

伊豆の大地の物語(21)

地質調査の日々(3)

火山学者 小山真人

 地質調査の結果、「地質図」というものができあがる。地質図は、地表に見られる地層の分布を地図上に描いたものである。実際には、地層が見えている部分は川・海岸・道路ぞいの崖にほぼ限られるため、表土・植生や人工物におおわれている部分については、幾何学的に推定した地層の分布を描くことになる。
 地層は、当初はほぼ水平に積み重なっていくため、標高の高い場所ほど新しい地層が見られることになる。しかし、のちの地殻変動や断層運動によって、地層全体が傾いたり、折り曲げられたり、断ち切られたりするために、それに応じた複雑な分布をとるようになる。地質調査は、そのパズル解きの作業でもある。
 できあがった地質図は、地層ごとに彩色され、見るからに美しいものとなる。彩色のルールは国際的に定められていて、岩質や年代によって決まった系統の色を用いなければならない。結果として中間色を多数用いることになり、それゆえ色彩的な美しさを増すわけである。地質図には、読者の理解を助けるために、図上のいくつかの線に沿う地下断面を描いた「地質断面図」と、どんな地層がどう重なっているかを一目で分かるようにした「模式(もしき)柱状図」が付されている。もちろん各地層の詳しい説明をのせた解説書も付けられる。
 地質図は、資源開発と密接な関係があるために、たいていの先進国では国家事業として作成・整備されている。日本でも産業技術総合研究所(旧通産省工業技術院地質調査所)によって全国の地質図が作成され続けており、誰でも購入可能である。ただし、販売元が限られており、書店に流通していないため、一般市民の目に触れる機会があまりない。アートとして壁に飾ってもおかしくないほどの見た目の美しさを考えれば、残念なことである。
 もちろん研究者個人が、さまざまな研究目的をもって描く地質図もある。筆者が作成したものも、そうしたもののひとつである。カラー印刷のコストが高いためにカラー版が公表できていないが、いつかまとまった時間ができたら、ホームページ上などで公開したいと考えている。

筆者の手書きによる伊豆半島の地質図の例。松崎地域の一部。


もどる