伊豆新聞連載記事(2007年12月30日)
火山学者 小山真人
伊豆半島に広く分布する約1千万〜200万年前の地層である白浜層群は、海底火山がつくった地層であることを前回までに述べた。ところが、そのうち500万年前以降の比較的新しい部分には、それに当てはまらない地層がわずかながら見られる。火山が陸上で噴火してできた地層である。
海底と違って陸上には空気があるため、火口から出たばかりの熱い噴出物の一部は空気にさらされる。すると熱の影響で空気中の酸素が岩石中の鉄分と結びつき、ヘマタイトと呼ばれる赤褐色の酸化鉄鉱物が生まれる。この鉱物が大量にできることによって、岩石そのものの色が赤みを帯びる結果となる。岩石が文字通り「焼かれて」赤く変色するわけである。このため陸上を流れた溶岩流や、地上に落下した火山弾・火山れきの中で、とくに空気に長時間さらされた部分が赤くなる。
もちろん色の赤さだけが陸上火山の噴出物の特徴ではない。溶岩流は、海底で噴出した時のように水冷作用によって砕かれないために、板状をした一枚岩となるものが多くなる。水冷火山弾や、海流や波浪によってできる地層のしま模様も見られなくなるし、当然のことながら海中で暮らす生物の化石も含まれない。そのかわり、噴火の休止期間にたまる土や「ほこり」の地層がはさまれるようになる。さらには前回述べたように、火口から同じ距離を隔てた場所に降ってくる軽石と岩片の比率が、海底の場合に比べて小さくなるなど、さまざまな見かけ上の違いが生まれる。
このような陸上火山独特の特徴は、百万年前ころに伊豆全体が陸化した後の地層(熱海層群)に広く見られるものである。しかし、白浜層群の中を注意深く調査すると、このような陸上火山の特徴を備えた地層が、熱海市網代(あじろ)や中伊豆町梅木(うめぎ)などの、数ヶ所で見つかった。それらの地層の分布は狭く、スポット的である。
このことは、当時の伊豆が、現在の伊豆七島海域で見られるような環境にあったことを想像させる。つまり、伊豆のほぼ全体が浅い海底にあり、その中に点々と火山島が頭を出していたと考えられる。伊豆における、初めての陸地の登場である。
陸上火山の噴出物とみられる地層。火山弾が高温の溶融状態を保ったまま火口付近に落下し、まるで柔らかな餅(もち)を地面に落としたようにベチャベチャとつぶれながら積み重なってできた。全体が赤味を帯びている。熱海市網代(あじろ)付近。