伊豆新聞連載記事(2007年12月23日)

伊豆の大地の物語(17)

白浜層群の時代(6)火山の根

火山学者 小山真人

 山がちの地形をもつ伊豆半島。その山々の中でも、ひときわ人目を引いてそびえ立つ奇峰や奇岩がいくつかある。伊豆の国市の城山(じょうやま)と葛城山(かつらぎやま)、下田市の下田富士と寝姿山(ねすがたやま)、松崎町雲見の烏帽子山(えぼしやま)などが、その例である。これらの奇峰の多くは、側面が絶壁となった鐘のような形状を備えているが、地形的にさほど明瞭でないものもある。
 これらの奇峰・奇岩は、火山の直下で冷え固まったマグマが、後の浸食によって洗い出されたものであり、火山岩頸(がんけい)と呼ばれている。いわば火山の「根」にあたる部分である。その実体は、たいていの場合は堅固な火山岩の一枚岩であり、柱状節理(ちゅうじょうせつり)などの、冷却にともなう収縮割れ目ができているものも多い。
 火山岩頸は、他の火山地形と同様に伊豆や日本に限らず、世界中の火山地域に存在している。たとえば、有名な映画「未知との遭遇(そうぐう)」のクライマックスシーンで、巨大UFOが空から舞い降りた場所にそびえ立つ奇岩デビルスタワー(アメリカ合衆国、ワイオミング州)も火山岩頸の仲間である。デビルスタワーの側面の崖には、見事な柱状節理が観察できる。
 火山岩頸は、地層中に入り込んだマグマが冷え固まってできた貫入岩体(かんにゅうがんたい)の一種であり、そびえ立つような地形を残しているものに対する呼び名である。地形的に明瞭でない貫入岩体は伊豆半島の至るところにある。しかし、大型の火山岩頸は、白浜層群の中だけにほぼ限られている。大規模な貫入岩体は、均質な岩石が大量に採取できるために採石場になっている例が多い。沼津市の大久保の鼻、伊豆市の堀切付近にある採石場などがその例である。
 貫入岩体のうち、垂直ないしは急傾斜をなす板状のものを岩脈(がんみゃく)と呼ぶ。岩脈は、地層がつくる縞を横切っているために発見しやすい。海岸の崖に見られる例としては、西伊豆町の黄金崎(こがねざき)や浮島(ふとう)、熱海市網代(あじろ)付近などに、とくに人目を引く岩脈が存在する。数は少ないが、地層にほぼ平行な板状の貫入岩体もあり、シルと呼ばれている。

伊豆の国市を流れる狩野川(かのがわ)のほとりにそびえる城山(じょうやま)。伊豆半島を代表する火山岩頸(がんけい)のひとつである。


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