伊豆新聞連載記事(2007年12月16日)

伊豆の大地の物語(16)

白浜層群の時代(5)白い崖

火山学者 小山真人

 西伊豆堂ヶ島海岸の崖の上部に見られる白い地層は、海底火山の噴火で放出された白色の軽石が、当時の海底に厚く降り積もってできたことを前回までに述べた。このような軽石の地層からなる白い崖は、堂ヶ島海岸だけでなく、伊豆半島のあちこちに存在する。主なものを挙げると、伊豆市の修善寺温泉・下白岩(しもしらいわ)・冷川(ひえかわ)付近、松崎町の室岩洞(むろいわどう)付近、南伊豆町や下田市の一部、沼津市江浦(えのうら)周辺などである。堂ヶ島海岸以外のものは主に山間部にあるため、あまり目立たない。
 そもそも軽石とは何だろうか。軽石の正体は、気泡をたくさん含んだ火山ガラスである。火山ガラスは、噴火の際にマグマが火口付近で急冷されてできるガラス状の岩石である。気泡は、マグマ中に含まれていたガス成分が気化してできた「あぶく」である。
 海底火山の噴火の際には、火口から軽石だけでなく、火山弾や岩片、火山灰なども放出されたはずであるが、火山弾は大きくて重いため、火口から遠くへと運ばれる過程で先に落ちたり沈んだりして、他の噴出物と分離してしまう。一方で、火山灰はいつまでも海中を漂うために、海流に乗ってはるか遠方へと流れ去ってしまう。軽石も、文字通り最初は気泡を含んで軽いため、海面に浮いたり、海中を漂ったりする。しかし、徐々に内部に浸水し、やがては岩片とともに海底に沈むことになる。
 軽石ばかりが積もっていると思われた白い崖の地層も、よく観察すると細かな岩片が含まれている。大きな軽石と小さな岩片の組み合せは、実は海底に降りつもった地層の特徴である。これは、大きな軽石が水中を沈下する速度が、小さな岩片のそれとほぼ等しいからである。小さい軽石は、より遠くへと漂って行ってしまう。逆に、大きな岩片は火口の近くで早々と沈んでしまう。結果的に、海底のある場所で見ると、大きな軽石と小さな岩片が共存することになる。軽石と岩片の大きさの比率は海中で大きく陸上で小さいため、この比率に注目することによって、地層のできた場所が海底か陸上かを判断できることがある。

伊豆市冷川(ひえかわ)付近に分布する軽石凝灰岩(ぎょうかいがん)の地層。海底火山の噴火で放出された軽石が、海底にたまってできた。よく見ると、大きい軽石だけでなく、小さな岩片も含んでいる。


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