伊豆新聞連載記事(2010年3月21日)

伊豆の大地の物語(134)

大地と共に生きる(8)火山の恵み(下)

火山学者 小山真人

 火山がつくった石材や鉱産資源は、古くから採掘されて私たちの暮らしに役立てられてきた。たとえば、火山の地下ではマグマや温泉からさまざまな成分が沈殿し、鉱床となる。かつて伊豆のあちこちでさかんに採掘された金、一時は日本の板ガラス原料の大半を占めた西伊豆町宇久須(うぐす)の伊豆珪石(本連載第39回参照)などが、その代表である。伊東市と伊豆市の境界の柏峠付近などで産する黒曜石(こくようせき)も、火山がつくったガラス資源のひとつであり、縄文時代に矢じりやナイフの原料として重宝された(第40回参照)。
 伊豆の火山、とくに多賀火山、宇佐美火山、天城火山、達磨(だるま)火山などの陸上大型火山(第32-33回参照)が流した安山岩溶岩は、江戸城を築城する時の石材として大量に切り出され、船で輸送された。こうした採石場(石丁場(いしちょうば))の跡が、あちこちの山中や海岸に残されている。こうした遺跡の岩石には、加工の跡である矢穴(やあな)や、切り出し責任者であった大名の刻印が残されているものもある。さらに、こうした溶岩だけでなく、伊豆の大部分が海底にあった頃の海底火山がつくった凝灰岩(ぎょうかいがん)も、古くから石材として採掘されてきた。凝灰岩は、火山灰や軽石などが長い時間をかけて固結したものである。伊豆東部火山群が噴出したスコリア(暗色の軽石)も、コンクリートに混ぜる骨材(こつざい)として重宝され、各地で採石されている。
 火山は美しい事物もつくり出す。上述の凝灰岩には、海流や波の作用によって美しい紋様が残されているものがある。西伊豆町の堂ヶ島海岸の崖がその一例である(第14-15回参照)。大室山の美しい形はスコリア丘(きゅう)と呼ばれる火山特有のものであり(第82回参照)、そこから流れ出た溶岩はポットホールやスコリアラフトなどの珍しい造形をもたらした(第87回参照)。大室山以外の伊豆東部火山群の溶岩流も、天城山系の沢に流れこんで浄蓮(じょうれん)の滝、万城(ばんじょう)の滝、滑沢(なめざわ)渓谷(以上、伊豆市)、河津七滝(ななだる)(河津町)などの名瀑をつくった。こうした溶岩流の中には、柱状節理(せつり)や板状節理などの美しく規則正しい冷却割れ目が刻まれているものもある(第35、70、74回参照)。

 

代表的な火山の恵みの整理。


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