伊豆新聞連載記事(2010年2月28日)

伊豆の大地の物語(131)

大地と共に生きる(5)火山を学ぶ

火山学者 小山真人

 伊豆東部火山群にハザードマップとそれにもとづく避難計画が存在しない現状を、伊東市だけの責任問題と考えてはいけない。本連載の第122回で述べたように、伊豆東部火山群のマグマ活動が伊東沖で継続しているのは1978年11月以来のことであり、それ以前の数年間は天城山を中心とした各地で群発地震が起きていた。また、第118回で述べたように、1737年の群発地震は北伊豆または中伊豆地域で起きた可能性がある。そもそも伊豆東部火山群は伊東市・伊豆市・伊豆の国市・東伊豆町・河津町の5市町にわたる広い範囲に分布している。つまり、マグマ活動は、今後この5市町のどこに移動して発生してもおかしくない。さらには上の5市町以外の範囲も火山灰や土石流、あるいは噴火にともなう津波の被害を受ける可能性がある。つまり、伊豆東部火山群の防災対策は、伊豆全体がひとつになって考えるべき課題なのである。
 そのための第一歩として、まずは伊豆全体の住民が普段から火山の知識を学び、火山を意識した生活を始める必要があるだろう。その際に必要なことは、火山の知識や情報は自分たちの生活や観光にマイナスでないばかりか、使い方によってはプラスに転じられるという認識である。そもそも群発地震が始まると、たいして深刻な状況でもないのに次々にキャンセルが出るのは、観光客の火山に対する知識不足によるものである。知識が無いことが、火山を闇雲に恐れてしまう結果につながるのである。しかし、そうした過剰反応を苦々しく思う前に、まず自分たちがどれほど火山のことを知っているかを考えてほしい。住民自身が得体の知れないと思うものに対し、観光客がさらに大きな不安や恐怖を感じるのは当然のことである。まず住民が率先して火山の知識を学び、それによって自分自身の中にある根拠のない不安や間違ったイメージを取り除くことによって、火山を正しく恐れ、有事に正しく対処する術を身につけることができるのである。そして、そのような意識の高い住民と行政によって対策が完備された安全かつ安心な観光地は、その事実だけでも大きな誘客効果をもたらすであろう。さらには、伊豆の大地をつくった火山は、住民や観光客に大きな恩恵を多数もたらしていることに気づくことが肝要である。そのことを次回以降に説いていこう。

昨年11月に伊東市内で開催された火山に関する公開講座。筆者が講師をつとめた。こうした機会はたびたび設けられている。写真は伊東市教育委員会提供。


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