伊豆新聞連載記事(2007年11月25日)

伊豆の大地の物語(13)

白浜層群の時代(2)陸化した海底火山

火山学者 小山真人

 伊豆半島に広く分布する約1千万〜200万年前の地層である白浜層群は、海底火山の噴出物と、そこから削られた土砂が近くの浅い海底にたまってできた地層であることを前の回で述べた。まるで見てきたかのごとく「海底火山の噴出物」と書いたが、実際には海底火山の噴火を直接見た人間はまだいない。潜水艇の数や潜航時間がごく限られた現状では、たとえ海底火山の真上に潜航しても、たまたま噴火と遭遇する確率はきわめて小さいし、本当にそうなったら遭難の危険性が高い。そもそも海底はごく浅い部分を除いて真っ暗闇なので、潜水艇の窓から見えるのはサーチライトが届く数十メートル以内に限られる。噴火でまき上げられた土砂や火山灰などで海水が濁ってしまったら即アウトである。つまり、潜水艇での海底噴火の観察は、現実には困難である。
 では、なぜ特定の地層が海底火山の噴出物と判断できるかと言うと、その地層が海底でできた証拠と、できた時に高温であった証拠の2つがセットで見つかるからである。前者については、波や海流がつくる縞模様などの特徴や、海中に住む生物の化石が鍵となる。後者については、海水で急冷された溶岩流や火山弾の存在がもっともわかりやすい。
 溶岩流が海底を流れる場合、本連載の第3回で説明したように枕状(まくらじょう)溶岩と呼ばれる特徴的な形態をとる場合のほか、水冷破砕(はさい)溶岩という形態をとる場合がある。海底に噴出した熱い溶岩流が冷たい海水に触れて急冷される際に、熱ひずみによってこなごなに砕け、角ばった岩片や岩塊(がんかい)の集合体となることがある。これが水冷破砕溶岩である。
 海底火山の火口から熱い状態のまま放出された火山弾も、急冷の際の熱ひずみによって特徴的な割れ目ができたり、表面にガラス質の殻がつくられたりすることがある。このような特徴をもつ火山弾を、水冷火山弾と呼ぶ。
 白浜層群には、よく探せば至るところで水冷破砕溶岩や水冷火山弾を始めとする海底噴火の証拠を見つけることができる。かつて海底火山の集まりであった伊豆が、その後陸化したことを実感する一瞬である。

白浜層群に含まれる水冷火山弾の例。ボールペンの下にある岩が水冷火山弾。まわりから急激に熱を奪われることによって放射状の割れ目が入っている。他にもそれらしい岩がいくつか見える。下田市田牛(とうじ)付近。


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