伊豆新聞連載記事(2010年2月7日)
火山学者 小山真人
地下の岩石に加わる歪(ひず)みの観測データは、伊豆東方沖群発地震の開始を事前に予測するだけでなく、規模や継続日数の予測、さらには噴火可能性の検討にも使えることが最近わかってきた。この場合に注目するのは、歪みの変化量である。この数値は、地下の浅い部分に侵入したマグマの量を反映すると考えられている。マグマがたくさん侵入するほど、周囲の岩石に大きな力がかかり、歪みが増大する。その結果として、歪みによって誘発される地震の数も増え、継続日数も長くなり、マグマそのものが地表に達する可能性も増してくると考えられる。
実際に、1989年の海底噴火を起こした群発地震(第20回)にともなった歪みの総変化量は、2009年12月〜翌年1月の群発地震(第46回)の際の4倍という大きなものであった。こうした大きな歪み変化を示した群発地震は、第20回の他に第18回(1988年7〜9月)、第30回(1995年9〜10月)、第37回(1998年4〜6月)がある。これら4回の継続日数は30〜69日と長く、地震回数(伊東市鎌田(かまだ)に設置された地震計の無感地震を含む回数)も9千〜2万5千回と膨大な数に及んだ。これに対し、2009年12月〜翌年1月の群発地震の継続日数は27日、地震回数は6525回であり、明らかに小規模であった。
ただし、ここで注意すべきは、歪みの総変化量が確定するのは群発地震がほぼ収まった後という点である。それでは予測が遅すぎて役に立たない。そのため精度は落ちるが、群発地震中の歪み変化の割合(マグマが侵入する勢い)が最大となった時点で、その値にもとづいて予測する方法がとられる。この方法ならば、群発地震の開始から数日以内に、規模や終了時期の見通しが大まかに得られる。2009年12月〜翌年1月の群発地震にともなう歪み変化を見ると、開始から3日後の12月20日時点で、歪みの変化割合にもとづく予測が可能となった。予測結果は、継続日数が10数日、地震回数が2600回程度であったが、実際には上記の通り27日、6525回となった。どちらも予測値と外れて大きいが、今回の場合は全体的に震源が浅かったことが影響したようである。いずれにしろ群発地震の規模や期間についての一応の目安が、早い時点で可能になった点を評価すべきである。
伊東沖海底噴火が起きた1989年の群発地震(上)と2009年の群発地震(下)の地震回数(毎時)と歪みの変化を同じスケールで比較した。横軸の数字は日付。気象庁の資料にもとづく。