伊豆新聞連載記事(2010年1月31日)
火山学者 小山真人
1989年(平成元年)の海底噴火の後も、伊豆東方沖群発地震は断続的に引き続いている。1978年11月の最初の群発地震から2009年末までの31年間で、小規模なものまで含めると計46回の群発地震が起きてきた。伊東沖海底噴火は、このうちの第20回に伴ったものであった。
海底噴火の後、3年半ほどの間は群発地震が低調であったが、その後も第24回(1993年5〜6月)、第30回(1995年9〜10月)、第34回(1997年3月)、第37回(1998年4〜5月)などの規模の大きな群発地震がたびたび起きた。その後再び静寂が訪れたように見えたが、2002年5月以降に再び起き始め、第44回(2006年4〜5月)は本格的なものであった。その後再び静かになったが、ほぼ3年ぶりに第46回(2009年12月〜翌年1月)が発生した。このように伊豆東方沖群発地震の規模や間隔はかなり不規則であり、次の発生時期や大きさを予測することは難しかった。
しかし、こうした群発地震を地道に観測し続けてきた結果、今では事前に予測可能となった項目もある。その際に重要となる観測データは、地下の岩石に加わる歪(ひず)みの変化である。「歪み」は物体の変形の度合いを示す数値であり、加わった力の大きさを反映している。岩石の歪みを測定する「歪み計」という機械が東伊豆町熱川付近の地下に埋められており、その数値が気象庁によって常時監視されている。これまで何度か述べてきたように、伊豆東方沖群発地震はマグマが地下に押し入ることによって生じている。その際には周囲の地殻に力が加わるため、群発地震にともなう歪みの変化が実際に観測されてきた。
さらに細かく見ると、歪みの変化は、群発地震の開始に数時間〜十数時間ほど先だって始まることがわかった。これは、マグマの侵入開始に伴って歪みが変化し始めるが、まだ岩石の破壊には至らず、しばらく時間をおいた後に、ついに岩石が割れ始めて群発地震が発生するためである。この性質を利用して、歪みの変化から伊豆東方沖群発地震の開始を直前に予知できるようになってきた。実は2009年12月17日夕刻から始まった群発地震も、その開始は歪みの変化から16日深夜の時点ですでに予知されていたのである。
1978年11月以降に起きた主な伊豆東方沖群発地震。最大震度が3以上のものを示した。