伊豆新聞連載記事(2007年11月18日)

伊豆の大地の物語(12)

白浜層群の時代(1)プリオシン海岸

火山学者 小山真人

 宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」の中で、主人公のジョバンニと友人のカムパネルラは、銀河鉄道での旅の途中で停車場の近くにある化石の発掘現場に立ち寄る。その場所は宇宙の一角にありながら、なぜか「プリオシン海岸」と呼ばれている。幻想的な一場面であるが、実はプリオシン海岸のイメージをほうふつとさせる場所が伊豆半島にある。下田市の白浜海岸である。
 そもそもプリオシン(Pliocene)とは、地質時代のひとつ第三紀鮮新世(せんしんせい)(約500万〜200万年前の期間)のことである。白浜海岸の海水浴場の北側につづく崖(がけ)を作る地層は、軽石や火山灰が海にたまってできた凝灰質砂岩(ぎょうかいしつさがん)であり、目を近づけてよく見ると貝殻・サンゴ・ウニなどの化石を多数含んでいる。これらの化石は、鮮新世を生きた生物が残したものである。
 化石を大量に含む鮮新世の地層があらわになっている海岸、白浜海岸は、まさに現実の鮮新世(プリオシン)海岸と言ってよいだろう。化石や地層の特徴から、かつてその場所が浅い海であったことがわかる。近くには当時の海岸があったかもしれない。白浜海岸は、鮮新世の海岸と現世の海岸とが、数百万年の時を超えて偶然重なり合った稀有(けう)な場所なのである。
 白浜海岸の凝灰質砂岩は、白浜層群の一部に相当する。そもそも「白浜層群」の名は、白浜海岸にちなんで付けられたものである。白浜層群は、これまでこの連載の中で説明してきた仁科層群・湯ヶ島層群に次いで、伊豆半島で3番目に古い地層であり、とくに半島南部の海岸や山中に広く分布している。その年代は、鮮新世だけでなく、およそ1千万〜200万年前の範囲にわたっている。白浜層群のほとんどは海底火山の噴出物と、そこから削られた土砂が近くの浅い海底にたまってできた地層からなる。

白浜海岸の崖に見られる凝灰質砂岩(ぎょうかいしつさがん)。浅い海に生息していた生物の化石を大量に含んでいる。


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