伊豆新聞連載記事(2009年11月22日)
火山学者 小山真人
下田港で1854年安政東海地震に遭遇したロシア提督プチャーチンは、地震の原因は地中の「火気」であると考えていた。その後、地震は地下の岩石に蓄えられた歪(ひず)みが断層破壊によって解放される現象であることが判明し、現在ではその断層(震源断層)の位置や形状を精密な観測で推定できるようになっている。そもそも「火気」、すなわち地下のマグマがすべての地震の犯人だと考えてしまうと、火山から遠く離れた場所で発生する数多くの地震の原因を説明できない。
しかし、地震と「火気」の関係が全くの妄想だったわけではない。火山の噴火にしばしば地震がともなうことは、古くから知られていた。現代では、こうした火山と地震の密接な関連性が、マグマと震源断層の力の及ぼし合いによって説明されている。
マグマが、地下のマグマだまりから地表近くに上ってくる場合を考えよう。マグマの移動によって周囲の岩石は力を受ける。もともと地下の岩石には、ある程度の歪みが蓄えられている。マグマが加えた力がその歪みを増大させれば、岩石は歪みに耐えられなくなって破壊し、断層が生じて地震が起きる。1978年以来、伊東沖で断続的に続いている群発地震のメカニズムがまさにこれである。あるいは、マグマが上ってきた場所の近くに、未知の活断層が歪みを限界まで蓄積した状態で眠っている場合もある。こうした断層の歪みがマグマの圧力で増大した場合、断層が破壊して大地震が起きることもある。1980年6月に起きた伊豆半島東方沖地震(マグニチュード6.7)は、おそらくこうした例のひとつである。
一方で、逆に地震がマグマの活動を誘発する場合もある。その代表例は、1707年宝永東海地震の49日後に起きた富士山の大規模な噴火(宝永噴火)である。こうした誘発のメカニズムとして、2つの候補がある。ひとつは地震を起こした断層の動きによって、周辺の歪みが変化することである。この変化がマグマを刺激する方向に働いた時に、マグマの上昇を誘発し、噴火に至る場合がある。もうひとつは、地震の強い揺れそのものがマグマをゆさぶって刺激する場合である。ただし、いずれの場合においても、マグマの側で噴火への準備が整っている(十分なエネルギーをためている)ことが必要である。
近い距離にある火山と地震(震源断層)は、互いに影響を及ぼし合う関係にある。噴火が地震を誘発することもあれば(A1→A2)、地震が噴火を誘発することもある(B1→B2)。