伊豆新聞連載記事(2009年10月18日)

伊豆の大地の物語(112)

生きている伊豆の大地(14)真鶴マイクロプレート

火山学者 小山真人

 並行する2つの大断層である丹那(たんな)断層と西相模湾断裂(だんれつ)が、伊豆半島北東部の地殻を引き裂き、大きく回転させたメカニズムについて、前回までに述べた。そもそも、なぜこの2つの大断層は、ここに存在するのだろうか? このうちの西相模湾断裂については、関東地方の下に沈み込んでいくフィリピン海プレートと、本州に衝突して沈み込めない伊豆の地殻とが引き裂かれてできた割れ目であることを、本連載の第101回で説明した。では、もう一方の丹那断層の存在意味は何だろうか? 第108回で伊豆の陸上に多数の活断層があることを説明したが、丹那断層は他と比べて全長、ずれの総量、ずれの平均的速度がいずれも大きく、伊豆の活断層の中では別格と考えられている。こうした顕著な構造には、それなりの存在意味があるものである。
 伊豆東部火山群と丹那断層の位置関係をよく見ると、伊豆東部火山群のほとんどは丹那断層の南西延長上の東側のみに分布している。第48回で述べたように、伊豆東部火山群の噴火は割れ目噴火として起き、それにともなって割れ目の幅だけ地殻を北東-南西方向に押し広げる。噴火を伴わない地下のマグマ活動もたくさん起き、その際にも地殻が押し広げられている。1度の拡大量はせいぜい1メートル程度であるが、そうした拡大が100年に1回起きるとすれば1万年で100メートルも地殻が拡大することになる。伊豆東部火山群のマグマは過去15万年間にわたって活動を続けてきたので、拡大量の総和が1キロメートル以上になっていてもおかしくない。
 地殻が拡大すれば、その分は何らかの形で盛り上がったり、地下に沈んだりしなければ、地表面積の収支がつかなくなる。そうした目で見れば、伊豆東部火山群で地殻が拡大した分だけ、伊豆北東部を含む地殻(真鶴(まなづる)岬がほぼ中央にあることから「真鶴マイクロプレート」と呼ばれる)が北東側に移動し、大磯(おおいそ)丘陵の下に沈み込んでいると考えれば、丹那断層の存在意味がおのずと理解できるようになる。つまり、伊豆東部火山群での地殻の拡大によってたまったひずみを帳消しにするために丹那断層がずれ、それによって北東に移動した真鶴マイクロプレートが、その先の小田原付近で地下に沈み込むという考え方である。この仮説は1992年に筆者が初めて提唱したものであるが、その後の測量で真鶴マイクロプレートの動きが実測されていることなどから、賛同者が増えている。

伊豆東部火山群・丹那断層・真鶴マイクロプレートの3者の関係を説明する図。南東上空から地下の一部を透視した図として示した。黒い三角をつけた太線はプレートの沈みこみ口。


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