伊豆新聞連載記事(2009年10月11日)

伊豆の大地の物語(111)

生きている伊豆の大地(13)構造回転の謎(下)

火山学者 小山真人

 前回までに、丹那断層とその東の海岸線にはさまれた地域の地殻が、場所によって90度近く回転した証拠が見つかったことを述べた。この証拠は多賀火山や宇佐美火山の溶岩の磁気測定結果から得られたものであり、回転の時期はこれらの溶岩が流出した後の、おおよそ50万年前から現在までの間と考えられる。長い時間をかけて徐々に進行したこととはいえ、これほど大規模な大地の動きが1980年代になって初めてわかったことは驚きである。本連載の第28回でも述べたが、大地が傾いたり折れ曲げられたりすれば、それは地層の傾きとして肉眼でも容易に確認できるが、傾きを伴わない場合は検出困難なためである。岩石の磁気測定によって大規模な構造回転が検出された例としては、第28回で述べた伊豆の衝突による本州側の変形の他には、日本海の拡大にともなって1500万年前に日本列島が折れ曲がって現在の逆「く」の字型になったことを証明した研究が有名である。
 こうした大規模な構造回転に比べると、丹那断層の東側地域の回転はかなり局所的である。この回転の原因は何だろうか? 回転の起きた場所が丹那断層の東側に限られることから、原因として丹那断層の活動が疑われる。世界の同種の研究例を調べた結果、2本の横ずれ断層にはさまれた地域には、互い違いの向きの運動によって生じるずれの力によって多数の割れ目(渡り鳥の雁(かり)が斜めに並んで飛ぶ姿に似ていることから「雁行(がんこう)割れ目」と呼ばれる)が生じ、その割れ目によって短冊(たんざく)状に引き裂かれた地殻が少しずつ回転していくメカニズムが提唱されていることを知った。伊豆と同じ短冊状の断層群が世界のあちこちから発見され、岩石の磁気測定によって大きな回転運動が検出され、その原因が詳しく調べられていたのである。
 このメカニズムが正しいとすれば、丹那断層と対になるもうひとつの断層が熱海沖の海底のどこかにあるはずである。この有力な候補として疑われるのが、本連載の第101回で述べた西相模湾断裂である。また、短冊状地殻の回転によって、丹那断層の東に隣接して三角形のすき間(図の灰色部分)が生じることが予測される。丹那、田代、田原野、浮橋などの丹那断層の東に隣接した盆地は、おそらくこうしたすき間の発生によって地表が陥没してできたのであろう。

丹那断層の東側の地殻が回転するメカニズム。(1)丹那断層と西相模湾断裂にはさまれた地域の地殻には、断層をずらそうとする力によって多数の雁行割れ目(図の破線)が生じる。(2)さらに事態が進行すると、雁行割れ目はすべて断層となってずれ動き、短冊状に分断された地殻が回転する。


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