伊豆新聞連載記事(2007年11月11日)
火山学者 小山真人
専門家が地層の話をする時に「この地層の年代は○○万年前」などと、途方もない年数をあっさりと聞かされることが多い。この連載でも、そうしたことを疑問に思う読者の方がおられるだろう。人の一生の長さに比べて気が遠くなるほど昔の年代を、いったいどのように測定するのだろうか。
地層の年代を求めるために複数の方法が開発されている。それらは、地層に含まれる岩石の放射年代を求める方法、地層に含まれる化石の種類を調べる方法、地層に記録された地磁気を測定する方法などである。他にも色々な方法があるが、伊豆の地層の年代測定に活躍した、上の3つの方法を説明する。
放射年代測定法は、岩石中に含まれる微量の放射性元素の量と、それが壊れてできる元素の量を調べることによって、岩石ができてから経過した時間を推定する方法である。放射性元素が、その種類に特有の速度で崩壊して別の元素に変わってゆくことを利用した方法である。ただし、この方法が適用できるのは、ある種の火山岩に多く含まれるカリウム等の元素や、植物化石等に含まれる炭素だけであり、元素の種類によって適用できる年代幅も限られている。
化石を使う方法は、どの生物種がいつ出現していつ絶滅したかを事前に徹底的に調べて年代尺度を作っておくことで可能となる。もちろんその尺度を作るためには放射年代測定法や、他の方法の助けが必要である。年代尺度さえできていれば、あとは決め手になる化石や、化石の組み合せを地層中から見つければよい。ある種の微生物(石灰質ナンノプランクトン、浮遊性(ふゆうせい)有孔虫(ゆうこうちゅう)、放散虫(ほうさんちゅう)など)の化石は年代尺度が完備しており、とても役に立つ。
現在N極が北を指している地球の磁場は、時おり逆転してS極が北を指す時代があったことが知られており、そうした磁場の向きが岩石中の砂鉄粒子の中に記録されている場合が多い。よって、岩石のもつ微弱な磁気を測定することによって、その岩石ができたおおよその年代を知ることができる。
岩石の微弱な磁気を測定する装置。円筒は、現在の地球磁場をしゃ断するための6重の磁気シールド。このシールド内に高感度の磁気センサーが取り付けられている。