伊豆新聞連載記事(2009年8月30日)

伊豆の大地の物語(105)

生きている伊豆の大地(7)丹那断層(4)

火山学者 小山真人

 1930年北伊豆地震によって丹那断層がずれ、丹那断層をまたいで建設中だった丹那トンネルに2メートル以上の食い違いが生じた。この事実は、当時の鉄道省に少なからぬ衝撃を与えたらしい。なぜなら、たまたま工事中で良かったものの、実際に列車が走り始めていたら大惨事の可能性もあったからである。しかし、当時の知識からも活断層のずれはめったに起きないことが大体予想できたため、トンネル工事は続行され、後に併設された新幹線の新丹那トンネルとともに、今では日本の東西を結ぶ大動脈の一部となっている。
 しかしながら、丹那断層が次に再びずれてトンネルに食い違いを与えるのが、どの程度遠い将来なのかは誰もが知りたいところである。また、北伊豆地震は、伊豆半島北部の広い範囲で震度6以上、場所によっては震度7で、全壊家屋が静岡県内だけで2000以上、死者250人余りという大変な被害を起こした地震である。こうした大地震がどの程度の再来間隔をもつかは、伊豆の住民の誰もが気になるところであろう。北伊豆地震の再来間隔を知るための丹那断層の発掘調査が実施されたのは、地震から50年を経た1980年代初めであった。
 活断層の発掘調査では、どのように断層活動の歴史を読みとるかをまず説明しておこう。火山噴火の場合は、噴出物の年代を直接調べることによって、噴火の時期や再来間隔を知ることができる。ところが、噴出物という物証を残してくれる火山噴火とは異なり、地震や断層運動は物を壊す現象なので、発生年代を調べにくい。割れ目そのものの年代は直接測定できないからである。
 こうした欠点を克服するために、活断層の発掘調査は、盆地やくぼ地などの、砂や泥がひんぱんに流れこみやすい場所をねらっておこなわれる。断層のずれによって土地に段差ができた後、その段差は砂や泥によって徐々に埋められ、やがて元の平らな土地に戻る。この間の砂や泥は、段差の低い側に厚くたまり、段差の両側で厚さの異なる地層として残される。言いかえれば、断層が動いた直後の地層は、断層をはさんだ両側で厚さが異なる場合が多いのである。よって、このような地層を掘り当て、その年代を調べることによって、断層がずれたおおよその時期を推測することができる。

活断層の周囲での地層のたまり方。1:活断層が動いてA層をずらし、地表に段差ができる。2:段差の両側で厚さの異なるB層がたまる。3:段差が埋まった後にC層がたまる。この後、しばらく時間をおいて再び活断層が動いて破線の位置に段差が生じ、C層がずれて1の状態に戻る。

 

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