伊豆新聞連載記事(2007年11月4日)

伊豆の大地の物語(10)

湯ヶ島層群の時代(5)一千万年前に何が起きた?

火山学者 小山真人

 地層というものは、ほぼ水平に積み重なっていき、上にある地層ほど時代が新しい。しかし、後の時代の地殻変動によって地層全体が大きく傾いたり、断層によって断ち切られたりすることがある。湯ヶ島層群に属する地層の多くは、断層によって細かく断ち切られた上で、大きく傾いていることが多い。これに対し、湯ヶ島層群の上に重なる白浜層群は、例外的な部分を除いてほぼ水平である。
 図に、湯ヶ島層群と白浜層群との間の典型的な関係を示す。これは西伊豆町の山中で見られるものだが、伊豆全体を代表する例と言ってよい。湯ヶ島層群に属する火山灰タービダイトの地層(火山灰が「乱泥流」となって海底を流れてできた地層。10月14日の回を参照)が、20度から場所によっては80度という急な角度で傾いている。その上を削り込んだ形で、白浜層群に属する火山灰まじりの砂岩(凝灰質(ぎょうかいしつ)砂岩)や海底火山の噴出物である火山角礫岩(かくれきがん)がほぼ水平に重なっている。傾いた地層の上を削り込んだ形で、より傾斜のゆるい地層が重なっているわけである。地層同士のこのような関係を不整合(ふせいごう)と呼び、両地層が接する面を不整合面と呼ぶ。
 伊豆のどこでも湯ヶ島層群と白浜層群との間に不整合の関係が見られるということは、湯ヶ島層群がたまってから白浜層群がたまるまでの間に、伊豆全体が大きな地殻変動を受け、湯ヶ島層群が傾いたり断層で断ち切られたりしたことを意味する。年代で言えば、一千万年前ころの出来事である。
 この大事件の原因やメカニズムについては不明な点が多いが、伊豆だけではなく、伊豆七島を経て小笠原諸島付近に至るまでの広い地域全体で同じ事件が起きたとする見方もある。一方で、湯ヶ島層群と白浜層群に含まれる火山岩の化学成分を比較すると、湯ヶ島層群のものの方が、より海溝に近い場所で噴出するマグマの性質を備えている。このことは、一千万年前に起きた地殻変動が、伊豆・小笠原海溝と伊豆の間の距離にまで影響を与えるほど大きなものであったことを示唆している。具体的に何が起きたかの謎解きは、将来の研究に託されている。

 

湯ヶ島層群と白浜層群との間にある不整合(ふせいごう)の例。


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