伊豆新聞集中連載記事(2006年12月26日)
大室山の近所には,たくさんの小火山の仲間たちがいる.伊東市街の南東にある小室山も,そのひとつである.小室山は1万5000年前に噴火し,流れ出た溶岩が東側の海を埋めて平坦な台地をつくった.この台地は,今はゴルフ場として利用されている.一碧湖(いっぺきこ)も,10万年前の噴火でできた火口に,水がたまったものである.
伊東市内の多くの施設が,火山のつくった地形を利用している.伊東市立南小学校は5万7000年前に噴火した城星(じょうぼし)火山の火口,伊東スタジアムは2万2000年前に噴火した鉢ヶ窪火口群のひとつを,そのまま利用して建てられたものである.伊東市役所の立つ台地も,7万5000年前の噴火で流れた溶岩のつくる地形である.
これらの小火山は,すべて大室山と同じように,ただ一度の噴火によって作られた単成(たんせい)火山である.このような単成火山が伊豆半島東部とその沖合に100個ほど群れをなしており,全体を伊豆東部火山群と呼んでいる.
伊豆東部火山群は,およそ15万年前から現在にいたるまで地下のマグマ活動を続け,時おり噴火を起こしてきた.1989年7月に手石海丘で起きた海底噴火も,伊豆東部火山群が起こした噴火である.また,伊豆東方沖の群発地震活動も,伊豆東部火山群の地下のマグマが起こす自然現象である.
しかし,噴火はここ3万年ほどの間,平均2500年に1度しか起きていない.だから,伊豆東部火山群をむやみに恐れたり,嫌ったりすることは間違いである.すでに説明したように,古来より伊東の人々はさまざまな火山地形をうまく利用し,生活の場や観光資源としてきた.伊東温泉も,歴代の火山たちが温めてくれた豊富な湯を利用したものである.私たちは,火山とともに生きるすべを自然と身につけてきたのだ.
いま私たちにできることは,万一の噴火の影響を予測したハザードマップをつくり,対策をしっかり整えることであり,あとは火山が私たちに与えてくれた恵みを満喫して暮らせばよいのである.
伊豆東部火山群のうち,伊東市付近にあるものの分布.