伊豆新聞集中連載記事(2006年12月23日)
大室山は伊東市や伊豆高原のシンボルとも言える山であるが,その火山としての生い立ち,大室山の噴火がまわりに与えた影響や恵みなどについて正確な知識をもっている人は少ないだろう.今回から3回にわたる記事の中で,それらを解説しよう.
大室山は,まるでプリンのような美しい形をした火山である.底の直径1000m,高さ300mという巨大なプリンだ.山頂には,まるで誰かがスプーンできれいにそいで食べてしまったような,スリバチ状の火口(深さ40m)がある.私は,子どもの頃,大室山があまりに整然とした形をしているので,ふもとの伊豆シャボテン公園がつくった築山だと思っていた.
しかし,この美しい形は自然の造形なのだ.ねばりけの少ない溶岩が噴水のように空高く吹き上がると,空中で冷え固まった溶岩のしぶき(黒い色をした軽石で,スコリアと呼ばれる)が火口のまわりに降りつもる.こうしてできた火山をスコリア丘(きゅう)と呼び,世界中に大小の仲間がたくさんいる.たとえば,富士山の青木ヶ原樹海のはずれにあり,千円札の富士山の絵の左端に描かれている小さな山が,その例である(あまり有名でないが,この富士山麓の山の名前も,じつは大室山である).
人間の目から見れば大きな大室山であるが,富士山と比べれば,ずいぶん小さい.同じ火山なのに,この大きさの差はどうしたことだろう.実は,大室山は4000年くらい前に起きた,ただ一度の噴火でできた山(単成(たんせい)火山)である.1度の噴火で出るマグマの量は限られるので,その時できる山の大きさにも,おのずと限界がある.
これに対し,富士山は10万年前から何百回も噴火をくりかえし,噴火のたびに山を成長させてきた結果,今のような巨大な山になったのだ.富士山のように,ほぼ同じ場所から何度も噴火する火山を複成(ふくせい)火山という.日本の火山には複成火山が圧倒的に多い.そういう意味で,大室山は珍しい存在と言えるのである.
南側からみた大室山