伊豆半島をめぐる現在の地学的状況

 1989年の手石海丘の噴火によって,伊豆東部火山群が活火山であることをあらためて思い知らされました.手石海丘の噴火は,伊東沖の群発地震活動や伊豆東部の地殻の異常隆起現象と密接に関連していることが知られています.
 伊豆半島は火山地帯であるばかりでなく,たくさんの活断層が分布し,活発な地震活動や地殻変動がおきつつある場所です.ここ20年ほどの間に1974年伊豆半島沖地震,1978年伊豆大島近海地震,1980年伊豆東方沖地震などの被害地震がおきています.さらに,伊豆半島の北西方の相模湾で神奈川県西部地震,伊豆半島西方の駿河湾では東海地震という大地震がおきるのではないかと心配されています.ここでは,伊豆半島が現在どのような状態にあり,活火山である伊豆東部火山群の状態にどのような影響をあたえているのか,そして伊豆東部火山群の再噴火はありえるのか,などを考えてみたいと思います.

 今からおよそ100万年前に伊豆半島が本州に衝突してからも,伊豆半島をのせるフィリピン海プレートは北西方向に移動をつづけています.フィリピン海プレートの伊豆半島以外の部分は,比較的容易に本州の下へと沈み込んでいます.
 この沈み込みがおきている場所が南海トラフや駿河トラフであり,沈み込みにともなって発生する大地震を東海地震や南海地震と呼んでいます.ところが,伊豆半島をつくる地殻は多数の火山によって暖められ軽くなっているので,容易に本州の下に沈み込むことができません.その結果,伊豆半島は本州を水平方向につよく押すことになり,丹沢山地や富士川ぞいの地層をはげしくしゅう曲させたり,赤石山地を盛り上がらせたりしています(図6).また,伊豆半島自身の地殻にも北西―南東方向につよい力が加わり,ひずみがたまりやすくなっているのです.このひずみによって伊豆半島の地殻が引き裂かれつつある場所が1930年に北伊豆地震をおこした丹那断層を代表とする活断層です.また,1974年伊豆半島沖地震や1978年伊豆大島近海地震などの地震も,このようなひずみ蓄積の結果として発生した現象です.

図6:伊豆半島とその周辺の現在の地学的状況.伊豆半島をのせたフィリピン海プレートは,本州に対して北西ないし北北西方向に年間4cmのスピードで移動している.駿河トラフと相模トラフにおいては,本州下へのフィリピン海プレートの沈み込みが起きている.このプレート沈み込みにともなって,駿河トラフにおいては東海地震が,相模トラフにおいては関東地震や小田原地震が定期的に発生している.ところが,伊豆半島自体は火山によって暖められているために地殻が軽くなっており,沈み込むことができずに本州に衝突している.この衝突による抵抗力によって伊豆半島をつくる地殻はひずみを受け,活発な地殻活動がおきているのである.



もくじへ戻る